森の中で4日間も煮込むインド茶漬けはいかが

雄大な那須高原をキャンバスにして、思い描くリゾートライフやセカンドライフ、田舎暮らしの夢は人それぞれ違います。別荘として家族や友人と過ごす週末リゾート、晴耕雨読の自給自足、無農薬野菜や有機野菜栽培、喫茶店やレストラン経営、趣味を生かした工房、アトリエオーナー。のんびり釣り三昧、秘湯巡りなど、既に那須高原で夢を描き始めた方々の那須暮らしをご紹介いたします。
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『森の中で4日間も煮込むインド茶漬けはいかが』

坂口孝さん

「芭蕉温泉ランド」分譲地の少し手前に、「インド茶漬け ソロー」と書かれた看板が見える。そのソローは、美しい描写でナチュラリストに人気の名著『ウォールデン 森の生活』を書いたヘンリー・デイビット・ソローから名づけたもの。自ら森の生活を楽しみたいという思いが、店名に込められている。ウッディ感覚あふれる店内に入ると、レンガに囲まれた大きな薪ストーブや木のテーブルが見える。メニューを聞くと、「いまはチキンカレーだけ」とオーナーの坂口さん。ワンメニューは自信がなければできないだろう。さっそく注文。食べるのが楽しみになってきた。

厨房に立った坂口さんは、手際よくルーを温め始めた。しばらくすると、店内にカレーのいい匂いが漂い始める。完成したチキンカレーは、ほとんど具が見えない。サラサラしており、まさにスープカレーと呼ぶにふさわしい1品だ。盛りのいいご飯とともに口に運ぶと、意外にさっぱり。トッピングにパルメザンチーズとスパーシーオイルが用意されており、濃厚さと辛味がプラスされる。それでもサラサラなので、スイスイと口に入っていく。「インド茶漬け」という意味がよくわかった。

「前は牛筋カレーもやっていたんですけど、犬を2匹飼ったら牧場まで行く時間がなくなって。このチキンカレーは4日間グツグツと煮込んでいます。だから肉も野菜も溶けているんですね。近くの別荘地の人たちには好評ですが、具の見えないカレーは地元の人には理解しにくいようで(笑)。頼まれたら夜もオープンして、パーティなどに利用してもらいます。近くの移住者15名ほどの新年会もここでやりました」

30歳くらいのときからバイクを趣味にしていた坂口さんは、よく山に出かけていた。東京生まれの東京育ちだが、ゴミゴミした都会よりアウトドアの方が性に合っていたようだ。サラリーマンをしながら休日にツーリングを楽しんでいたが、会社の経営難から退職。脱サラで自営業をめざす。そのとき頭に浮かんだのが、東京で食べ歩いたカレー、それもじっくり煮込んだスープカレーだった。那須に店を構えたのは、ツルツルの芦野温泉が好きでよく足を運んでいたから。もっと街寄りの土地に決まりかけたが、森の生活をめざす坂口さんにはもの足りない。現在の土地は面積が2000坪あり、一面が雑木林。しかも、隣接地はヒノキの公有林になっており、開発される心配がない。集客力の高い立地とはいえないが、マイペースで自然と触れ合いたい坂口さんにはピッタリだった。3年前に店と自宅を建築し、お母さんとともに森の生活を始める。ところが、すぐに交通事故でケガをして、半年間の休業を余儀なくされた。店を閉めたと誤解した人もいるようだが、回復後もコツコツとスープカレーを作り続けてきたのだ。

2000坪の敷地はさすがに広く、囲いの中で2匹の犬が飛び回れるプライベートなドッグランまである。また、自宅前で9羽の黒い烏骨鶏も飼っている。卵は週に3個くらいというから、高級な食材だ。餌は配合飼料以外にスーパーでもらったクズ野菜を食べさせており、健康な卵を産んでくれる。雑木林はストーブの薪として活用しており、普段は薪割りに余念がない。マサカリの扱いも徐々に巧くなってきたようだ。まさに森の生活と呼ぶにふさわしい暮らしぶりだが、「草刈りが大変。ちょっと広すぎました。捨て犬をもらって育ててきたんですけど、番犬になるんですよ。店を休んでいる水・木曜日は別荘地を散歩したり、犬の世話をしています。たまに東京へ行くこともあるけど、高層ビルを見ると圧迫感を感じるし、人混みも好きになれない」とナチュラリストらしいコメントが返ってきた。

 店には立派なプロジェクターがある。別荘地の人に勧められて購入したものだが、子どもの入学式や卒業式を観るため近くの移住者に活用してほしいという。優しい人柄が伝わってくる。最後に今後の予定を聞くと、「ソバガキをやろうと思っています。地元の人はだし汁で溶くんですが、これがおやつ代わりになってすごく美味しい」という。